・イチオシメニュー

大阪市生野区・新今里。人通りの多い商店街から少し外れた静かな通りを歩いていくと、ひっそりと灯る小さな看板が目に入る。そこに書かれた店名は「広東菜 Pas à pas(カントンサイ パザパ)」。一見すると通り過ぎてしまいそうなほど控えめな外観だが、扉を開けるとその奥には、店主のこだわりが詰まった“本格広東料理の世界”が広がっている。
・こだわり
「Pas à pas」とはフランス語で“少しずつ、一歩ずつ”という意味。その言葉どおり、この店は派手な宣伝や装飾とは無縁に、着実に地元の人々の心をつかみ、口コミで評判を広げてきた。目指すのは、“食材と向き合う瞬間のライブ感”を味わってもらうこと。
「毎日市場に行って、魚や野菜、肉をその日の状態で決めています。仕入れたもの次第で、その日のメニューが変わるんです」と語る。メニューは固定ではなく、まさに“その日だけの一期一会”。素材を見て、触って、香りを確かめながら、その日一番おいしい調理法を即興で組み立てていく。
このスタイルこそが「Pas à pas」の魅力だ。食材の持ち味を最大限に生かすために、広東料理の基本である“淡味(うまみを生かす薄味)”を軸にしながらも、日本の旬や土地の風土を大切にする。火加減、油の温度、調味のタイミング――そのすべてに、職人としての感覚が光る。厨房から立ちのぼる香ばしい湯気や鉄鍋の音が、まるでライブステージのように五感を刺激する。
おすすめは、おまかせスタイルで楽しむコース料理。事前に予約を入れると、シェフがその日の仕入れをもとにメニューを構成してくれる。蒸し魚や点心、炒め物など、シンプルながらも一品一品に丁寧な手仕事が感じられる内容だ。「できるだけ予約をいただけると、より良い食材をそろえられます」と。
中でも人気の一皿は、仕入れたての魚介を使った広東風蒸し料理。生姜とネギを効かせた熱々の香味油をかける瞬間には、思わず歓声が上がる。ほかにも、季節の野菜を使った炒め物や、香ばしく焼き上げた点心など、素材の瑞々しさがそのまま生きた料理が並ぶ。
店内はカウンター席を中心としたこぢんまりとした空間で、席数も多くない。その分、シェフとの距離が近く、料理の香りや音、手さばきを間近で感じられる。初めて訪れる人には少し分かりにくい場所にあるが、それもまた隠れ家的な魅力。見つけた人だけが体験できる“秘密の中華”とも言えるだろう。
「うちはわかりにくい場所にありますが、その分、わざわざ探して来てくださる方のために最高の一皿を出したいんです」と穏やかに語る。
店名の「Pas à pas(少しずつ)」という言葉どおり、日々の仕入れと丁寧な仕事を積み重ねながら、一歩ずつ信頼を築いてきたこの店。決して派手ではないが、訪れる人の記憶に深く残る温かな余韻を残す。
・ 店舗情報詳細
広東菜Pas a’ pas. カントンサイパザパ
070-1760-6762
大阪府大阪市生野区新今里3‐7‐24
火・水・木・金・土・日・祝日・祝前日・祝後日
11:30 – 14:00(コースのみの予約制)
17:30 – 22:00
月
